一度も優勝できなかったのなら、努力は何の意味もない。
トーマス・ワイゼル
幻に終わった第8回大会より約1年。
さあ
時はきた。
今日勝って最強をお見せしようじゃないか。
ー全てはこの日の為にやってきたのだからー
今回ボクゥが決めたSランクマーク相手は次に挙げる3人。
他の参加者はというと、STRAVA、twitter、ブログその他諸々全てチェックしたが、-言葉を濁さず敢えていうなら-“2019年の赤城ヒルクライム優勝争いに絡む要素”という一点においてはお話にならないタラバガニや。
†天照の白き死神†
ゼッケンNo.130 南川
年代別20代
表彰台常連チーム天照の若頭。推定PWR5.5倍以上。文句なくエキスパ勢クラスの実力者。室内練習メインなのか肌は驚くほど色白。そして愛車ドグマがドクロと発音が似ていることから死神。なので白き死神。天照の南川いるところに優勝は獲れないと云われているのも死神っぽい。
●ふぁいあーふぉっくす●
ゼッケンNo.131 篠崎
年代別20代
同じく推定PWR5.5倍↑。こちらもきまぐれエキスパ勢。前述の南川に今シーズン一度土をつけている実力者。ボクゥは南川クゥンを永遠のライバルと(勝手に)認めているのでこれは賞賛に値しますわぁ。日々の不満をツイートで漏らしがちなのでもらえる情報量が多くて助かります。ちなみにアップしてた嬬恋の動画みて、俺よくこの人に勝てたな(実質勝ってないがw)って素直に思えるほどのキレのある走り。
★絶対王者、大王様★
ゼッケンNo.128 大澤
年代別30代
間違いなく本大会年代別30代クラスの大本命。枝折、八方ヶ原、嬬恋と直近の参加したヒルクライム大会を全て制覇しているツワモノ。大王様。今回ボクゥが同じ年代別とあって1番警戒した相手でもあるねぇ。
おっと・・・
僕が”今回の赤城から”30代クラスで出走するのはまだ内緒やったっけねぇ・・・
ヒヒヒヒ・・・
シーズン初め、たまたま自分の誕生日が9月という関係で、今年の赤城は『超人達の闘技場』年代別30代で闘うことが自分だけがわかっていて、み〜んな研究させてもらったよ?
ぬるま湯のような20代クラスと違って30代がハイレベルな激戦区になることは百も承知。
それが自分が直前までマークされることなく、一方的に相手を研究し尽くせる。
こんな素晴らしい機会、活かさない手はないやろ。
赤城は何回も出場してることもあって、出走リストが出るのが前日というのもわかってるしなぁ。
今年、自分は20代クラスでずっと走っとったけど、前回の嬬恋での優勝ですら撒き餌、効果的なブラフと思っとったんよぉ。
惜しげもなくみんな全力出して頑張って、マークされてるとも気づかずに各大会の先頭集団で手の内みせてくれてぇ〜
あ り が と う。
ロードレースは化かし合いのスポーツよのう。
なあ、大王様ぁ!!!!
アナウンス『スタート5分前です!』
着いたで。
会場到着。
5分前?
充分や。
早く着きすぎて自分がマークされてもしょうがないしなぁ。
流石に相手も参加者リスト見て気づいてるだろうしなぁ。
そして見つけたよ。
大王様ぁ。
実のところ、スタート位置は直前まで迷っていて、レースの直前15分前まで調べていた気象庁の風向きデータによると北西からの弱風が少々。
年代別を獲るためには、最後方からの飛び出しアタックが1番効果的。
んなぁことは百も承知や。
ただ大本命、大王様のスタート位置を前方に確認し、その周辺にチラホラと”入賞候補者”たち。
うーん・・・
自分ら、スタート位置前過ぎやで?
ただ漠然と並んだだけでは有利には闘えんよ?
南川クゥンとシノザッキーはというと...
ほぉ...やっぱり2人は分かってるようやねぇ笑
あと若干とはいえ西寄りの風ということもあり、斜度の緩い前半戦は”右寄り"に抜いていく必要があるようや。
向かい風になることと、今までの年代別の経験から今回集団のスピードは遅めになることは間違いない。
僕の位置どりは”ココ”や。
この位置こそベスト。
そしてこの位置取りは全員が並び終わった後にしかわからない。
だから5分前で充分なんよね。
正直、唯一危惧していたのは、南川クゥンとシノザッキーの開幕ウルトラダッシュアタックからの超強力なコンビ逃げやったけど、その心配もなくなったしな。
つーかあの2人ならそれができるし、南チャンあたりは初赤城とはいえマジでやりかねないからな。
そしたらスタートでマジでレース終わるわ。
年代別の整列はただ前に並んだり後ろに並んだりすればいいってもんじゃない。
レースに影響力をもたらす人間がどこにいるかを全て把握し、その他の気候情報、コースレイアウトを頭に叩き込んで最善の策を練る。
ヒルクライムにおける絶対的正義のPWR(パワーウエイトレシオ)が地力で劣る僕が勝つためには、ほんの小さな要素であっても、優勝には欠かせない大事なことなんよね。
もしも相手が絶対に敵わないようなどんな強敵だったとしても、”勝とうとしなければ”勝てないんよ。勝負ってもんはね。
ヒルクライムは試合が始まる前に勝敗は決まっているとよく言われる。
実際このスポーツは番狂わせが少ない。
より準備をした勝ちそうなやつが勝ち、準備の足りない負けそうなやつが負ける
お前は準備が足りず負けそうか?
No
お前は勝つための準備はしてきたか?
Yes
さあスタート位置は決まった。
やろう、もう一回のない闘いを。
そして願わくばここにいる誰よりも楽しもう。
レースは超楽しい遊びだろ?
アナウンス『第2グループスタートです!』
1時間後、山頂で笑うのはこの俺だ。
ースタートの乾いた空砲の音が鳴り響くー
スタート直後
300人超の集団が一斉に動き始める。
そして間もなく計測開始地点。
集団がーーー加速する。
走ってる途中で前方に嬬恋キャベツヒルクライムの優勝者たちをこれで全て確認。
自分含めて嬬恋の各年代別(29以下・30〜34・35〜39)のチャンピオンだった3人がこの赤城山では同カテゴリーで競争するんだから、いかに赤城山が選手層が厚くビッグレースってのがわかる。
しかし嬬恋での優勝は僕にも力を与えていた。
ヒルクライム、自転車ってのはメンタルがモロに影響するスポーツだと個人的に考えている。
走りに覇気がないってのはよくいったもんで、キツイって自分で思い込むと体は動いてくれない。
体の認知機能だ。
《3つのP》と呼ばれるこの考え方。
Power 出力(パワー)
Pulse 心拍
Perception 認知
走り自体が生きていないとどんなパワーも心拍も噛み合わない。
自信、成果というのは必要。
走りにつながる。
ラッキーパンチだなんだと言われようが嬬恋獲れて良かったよ。
おかげで、集団各所に紛れている小中規模のヒルクライム大会表彰台常連者という”見た目”豪華なメンツを前にしても一向に怯まない。
むしろ、みんな頑張れと後ろからエールを送る心の余裕すらあるのだから。
実際落ち着いている。
嵐の前の静けさ。
朝食ったものが腹になくなった感じがする。
でもまだ腹はすかない。
いつもより身体がよく動くし、
周りの動きもよくみえる。
どの選手の後ろにつけば必要最小限の出力で前に出られるか直感的にわかるし、実際にその動きができている。
自分の調子がいいことは自分でわかる。
無駄な動きもない。
走りはじめて改めて感じる...”勝つ”感覚を。
「自転車は好きですか?」
「その好きという感情は勝利に必要か?
漠然とした理想など無力なだけだ、優勝を狙え」
わかってる。
自転車は好きだ。
ただごめん。
今日は特別だ。
“勝ち”に徹する。
その代わりといっては何だが自分の持てる全力以外ださないことは約束しよう。
ほどなくして富士見の大鳥居(およそ3km地点)を通過。
自分は集団前方まであがり様々な状況に対応できる高い位置をキープ。
しかし、ここまで順調のように思えたが、ある”違和感”を感じる。
何かおかしい。
自分の認識と何かがズレているように感じる。
・・・!!!
まさか!!!!!
今年、赤城山ヒルクライムに臨むにあたり、私は過去の大会当日のYouTube動画は読み漁ってきていた。
それこそ位置どりの参考やコースの確認などで何十回も見てきている。
もちろん動画に表示される細かい走行データもーーー
わかったぞ。
この”違和感”の正体。
手元のサイクルコンピュータのスピード表示を見て確信に変わる。
“例年”に比べて
集団のスピードが遅すぎるんだーーー
確かに予見できたことではある。
実際に集団を前で引いているのは自分が有力者としてチェックしていた人たちではない。
前回大会が中止になり、2年ぶりの大会とあって皆慎重になっている・・・のか?
“自惚れ”を語るのであれば、嬬恋で後方からスタートした自分が終始前を引かず、完全に最後ゴール刺されながらも数秒差で年代別トップタイムを出した悪い流れを引きずっているのかもしれない。
嫌な感じだ。
理由は明確にはわからないが直感がそういう。
ここは布石を打っておく。
ほんの少しだけ力を使い、大本命の後ろマークを外してまで、先頭2番手までポジションをあげておく。
自分には先頭を引いて集団をペースアップさせる実力はない。ましてや残り十数kmを単独で逃げるチカラもない。
“とりあえず”今できる最善のことはしておく。
集団のスピードが思ったより遅かったからもっと後方からスタートすれば良かったなんて結果論だ。
レースが始まってからそこを悔やんでもどうしようもない。
そう、判断が正しいか間違っているかなんてその時には誰にも判らない。
だから大切なのは判断の後。
下した判断を正解にする努力(こと)。
たとえ下した判断で悪い結果を招いてもそこから何ができるか如何に足掻くかこそが大切。
判断だけで決まるならレースは賭け事になっちまう。
自分の判断を信じろ。
そしてそれでどんな結果が出ても前へ進め。
わかってますよ、師匠。
いつだって人生はDo Your Bestですよね!!
確かに赤城は前半戦は斜度が緩く普通なら斜度が上がる中盤・後半に向けて脚を温存しようというのが真っ当な人間の考えであろう。
ただし、この馬鹿ふたりを除いてはな!!!
『前って誰か逃げてますか?』
ようやく来たか。
南川ぁあああ!!!!!
篠崎ぃいいい!!!!!
畜産試験場の手前。
5km地点。
待っていたよ。
キミを。
いや、キミたちを。
『前って誰か逃げてますか?』
南チャンが口にした言葉はたった一言だが、私がもらう情報量には充分すぎる。
スタート前集団前方の2人の不在。畜産試験場手前ーこのタイミングでの先頭追いつき。そして先の言葉。
同タイミングでのシノザッキーの合流。
やりやがったなお前ら。
おそらく集団最後方スタートからの先頭までのブリッジアップ。
なぜ分かったかって?
俺も同じことをやろうと思っていたからだよ。
ただ俺の場合、今日実際に30代の選手のスタート位置が前方に固まっているのを見て直前にプラン変更したわけだが。
最後方からのスタートは決まれば確かにこの上なく効果的だが、多少なりリスクは負うことになるからな。
まあ俺も合流するなら畜産前のこのタイミングでと思ってたよ。
畜産試験場は道路幅も広がり、スピードアップしやすく、中切れも起きやすい。
また地元グンマーの有力ヒルクライマーたちはこの畜産スタートでの赤城山登りが近年の主流となっているようでもあるし、有力選手が加速する理由にもなるしね。
ヒルクライムも流行(いやこの場合”傾向”といった方が正しいか?)があるからねぇ〜
まあこの2人の場合、ナチュラルに速いだけでそんなこと全く考えてないだろうけど。
ああさっきの言葉の答え返してなかったね。
『前1人逃げてる。加速しないとヤバい』
嘘なんだけど笑
集団のペースの遅さに危機感を感じていた直後というのもあり、本当にそう言うか迷ったが、
チラリ...
(各年代別を先導するモトバイクが近くに居る。この状況で幻の逃げを伝えて追わせるのも無理があるか?それよりここは後々のことを考え、南チャンの信頼をかち得ておくことを優先すべきか...)
「逃げはいないと思うよ」
満面の笑みで答える。
畜産試験場交差点を過ぎ、先頭は南チャン。時々シノザッキー。
最後方からスタートして先頭追いついて、すぐさま先頭引くとか、もう力の差見せつけ過ぎだろ。呆れ通り越して尊敬するわ。
顔馴染みということもあり、南チャンには一応挨拶。
どうやら年代別が違うという認識は事前の参加者リストを見てちゃんと知っていたようだ。
余計な声かけは少しでも体力を温存するために極力控えたいのだが、彼に対抗心を燃やされでもしたら非常に困るので。
ちなみに連絡先も知ってるのだが、レース本番ーしかも実際にスタートするまで年代別が違うことを伝えなかったのは情報が漏れるのを防ぐため笑
彼の知り合い速い人多そうだしね。
病的なまでの情報統制に思えるかい。
自分の年代別が上がるという情報は今回の自分にとっての生命線だからね。
ちなみに、2人が先頭に合流して疲れているところ悪いんだけど上記の通り自分は前を引かない。
2番手死守。
前を引かないだけで70%ほどの力で楽に進めるからね。
これはね、ある種『宗教』みたいな考え方の違いと思っていただきたい。
僕みたいな雑魚が優勝するためには正攻法ではダメなんですよ。
勝負する相手は全員格上と思うこと。
だからドラフティングしてるときも
ごむぇ〜ん、僕雑魚だからドラフティングして楽しちゃうけど勝ちたいからごむぇ〜ん
ってやるしかないんですよ。
卑怯ってのはそれ褒め言葉だよ?
つーか本当に卑怯ならこうやってブログ書いてわざわざ種明かししないからね。
この記事は僕なりの2人への感謝の気持ちなんですよ。ゲス。
勝つためならどんな卑怯な手だって使うぜ。
惜しげも無くな。
↑もちろん”レースの中”でね。一応念のため言っておくけど限度ってあるからね!
第八世代最新型スペックのトップクライマー2人の先頭加入により、集団のペースはやや上がったようにみえたが、それでも他のサザーランドどもを引き離すほどではない。
どこかでペースアップがかかるなぁ。
南チャンもちょくちょく後ろを振り返りながら、集団の多さを気にしているようにもみえる。
...先頭を変わって欲しそうにもみえる気もするが、さっきも述べた通りその願いはNo Thank youだ。
ただ状況は変わらず料金所通過。
ここまで21分。やはり遅すぎる。
と、そんなことを思った瞬間、
わずか標高差2m、距離にして50mほどの大河原橋の本コース唯一というには短すぎる下り区間を使い、先頭加速。
待ってましたと言わんばかりに2番手で後を追従。
そうよね。
極端に斜度が上がる赤城の中盤戦の入り口の急坂に対しては充分な助走が効果的よね。
・・・ん?w
前と差が・・・開く?
いや待て南川w
そのスピードは聞いていないwww
おそらくかなり踏み込んでいる。
まさかここからいつもの単独走をやる気か⁉︎
悔しいがこのペース俺はもたんぞ!?
と一瞬焦ったが、300m登ったところですぐにギアを落とし、落ち着いた様子。
あー良かったー
みんなには内緒だけどオレ坂苦手なんだわー
どっちかというと緩斜面の方が得意で、特に斜度の上がる赤城の中盤戦は苦手意識あるんよね。
(最強ヒルクライマーとは)
ただ苦手なりに対策はしてきた。
いやテクニックといっても過言ではないか。
まあテクニックの方はいずれお見せすることになるだろう。
若干のスピードアップはあったものの全体としては落ち着きを取り戻し、依然としていつもの2人が完全に集団をコントロール。
TeamSKYかな?
まあ順当にいけば斜度の上がる第1カーブ手前まではこのペースが続くだろう。ただ集団はいかんせん多い。30人はいるんじゃなかろうか。
中盤戦不得意な私はというと、先頭が気まぐれで加速しないことを祈りつつ、ひたすら耐えるのみ。
ちなみにいくら坂苦手とはいえ100%の力だと余力ないので、ポジションを多少下げてでも80%の力でどれだけついていけるかがポイントだったりすると私は考えている。
まあ今回は幸いギリギリ無理なくついていける自分の理想的なペースであったわけだが。
ヒルクライムはただ適当に筋肉を膨らませてテクニックハウツー本を読めば強くなるわけではない。
何日も何十日も地味な反復練習。
基礎トレーニングの繰り返し。
その積み重ねが勝利を引き寄せることはまぎれもない事実であることは間違いない。
そして、中盤戦は最初の山場へとさしかかる。
第1カーブ手前、桃畑バス停の急坂。
この坂を利用し、ある程度"弱者"をふるい落とすのが赤城でのセオリーっちゃセオリー。
するとここで横から真打・大王様登場。
さすが激坂得意なだけある(下調べ)
大王様が上がってくると話は別。
ポジションを下げるわけにはいかない。
無理をしてでも付いていく...いや加速する必要がある。
最悪、激坂を利用しての南川・篠崎・大澤の第八世代クライマー三国同盟が結成されると私のレースが終了してしまう。
ブラフだが
完全にキツイが
顔に出さず平然を装い、軽々登る雰囲気を出さねばならない。
“3rd Tenpo” 発動
相手の加速をみてから合わせてこちらも加速する。
他の激坂系クライマーもここで何人か上がってきていたが、前を引く2人がまだマイペースということもあり(しかも当然その後ろは無理して私が死守しているので)少ししたらみんな下がっていった。
この年代別20代の2人の実力が拮抗していることもこのペースに影響していたのかもしれず、今考えると、彼らにしてみれば中盤戦ですら遅すぎると思えるこのスローペースは私に非常に有利に働いた。
はじめの勝負どころを穏やかに終え、大王様に前にいかれたもののそのすぐ後ろに自分という出来過ぎだ結果。
抜かさせるときもタダでは抜かせず、自分は省力を意識し、相手にほんの数ワットでも余分な力を使ってもらいながら、良い意味で邪魔しながらポジションを明け渡す。
そして、大王様の真後ろより後ろにはポジションを下げない。これは中切れ対策でもある。
ここまで第1カーブ過ぎてからのペースアップもなくこのうえなく自分にとって心地よい。
レースにおいて相手に心地よく伸び伸びとさせちゃダメだよね。
自分にとって想定していた最悪の展開は軽量系クライマーによるここのアタックからの小集団逃げだった。
これをやられたら正直負けも覚悟していたくらい。
ただ、まあそんな度胸あるやつはいないよな?
少なくとも俺が実際に見てきたこれまでの今年度のレースにそんなやつはいなかったから。
※前の年代別20代の馬鹿(褒め言葉)2人を除く
2人は確かに強いけど、機材は超軽量級って訳ではないしね。それでも充分過ぎるほど速いってのがムカつくところでもあるんだが笑。
大王様の後ろについたまま、中盤戦の残り距離を着々と消化し、中盤戦第二の勝負どころの箕輪から姫百合にかけての二段坂に差し掛かる。
はじめの勝負どころの桃畑のバス停とは状況が違い、既に大本命の大王様に前にポジションを奪われている。
ここで使うのが
“2nd Tenpo”発動。
二段坂の手前には、ものすご〜く短いが緩やかな場所がある。
そこで加速。
登りの前の緩斜面は加速。
これ基本にして王道。
違うのは本命との位置関係からくるその後の動作。
先程は"わざと”譲った。
自分が前にいたから。
今度は急坂の入り口で相手に急接近。
自分が後ろにいるから。
文字通り、張り付く。
全ての抵抗における中で時速14km以上出した場合の、最も大きな抵抗はズバリ空気抵抗である。
ヒルクライムにおいて度々、『軽量であること』が神格化されることが多いように感じるが、空気抵抗”も”馬鹿にしてはならない。
小さな要素も積み上げれば勝ちの要因となっていく。
二段坂の一段目を登り終え、二段目突入。
・・・の前に緩やかな場所は無理してでもしっかり加速。
これも
“2nd Tenpo”
しっかりとどこで力を入れるべきかのコースの”コスパ”を意識。
坂の入り口には無理してでも相手と横並びになっておく。
まあ勘違いして欲しくないのが、まず力強く的確に動く身体があって、その上でいろんな知恵や戦略が役に立つんだけどね(ドヤァ)
二段坂最後の登りの終わりに開闢の帝王の断末魔を聞く。
「ああ、これで多少人数が減ったな。」
一瞥もせず、前を追う。
姫百合駐車場過ぎて、先頭加速。
オレ4番手。
自分にとって中盤戦の快適なサイクリングペースに焦っている面々も多かったのかもしれない。事実自分のタイムは中盤戦を20分を切っていない。
うずうずしている空気を感じる。
間違ってもなく赤城ヒルクライムは強豪揃いだ。
後半になるにつれポジション争いも熾烈になる。
そんなときに相手に道を譲って最後直線勝負は甘い考え。
自分のポジションをキープしなくちゃならない。
年代別で一番の力を持ってるやつがレースで勝つわけじゃねえ。
その力を勝負に使えないと勝てないわけだ。
ただ我武者羅に走ってもダメってことね。
力を持て余し、これまで後方待機して余力を残していた有力どころがだんだん前に出始める。
ただ勝負はまだこんなところでは動かない。
動くはずはない。
南チャン、シノザッキー、大王様は視界から外さずに、前に出る人の後ろにつき一応チェック。
中盤戦で下げてたポジションを労なく上げる絶好の機会でもある。
先頭入れ替わり等も度々あり、一時はポジションがぐちゃぐちゃになる場面もあったが、最も信頼する南チャンの後ろを信じて体力を温存しながら着いていく。
前に出る力を使えば使うほど体力消費が激しいのは明らか。ここは周りに流されず熱くならずにクレバーに。
俺の知ってる南チャンがこんなところで落ちる訳ないんだな。
逃げとか追い込みとか決めつけるんじゃねえ。
レースには流れがある。
流れをよく見る。
流れに飲まれても流されてもダメ。
飲まれたらそう容易く体制を立て直せない。どこまでも転がり落ちてくる。
流れに逆らったところで相手は何十人もいるんだ。無駄に力を使うことになる。
ようは自然体で流れに乗る
心配しなくても勝負どころは必ずやってくる。
どのレースでも最後は必ず直線だ。
お前だけの走りをみせてくれ。
ハイ、ボス。
頭は冷静に、心は熱く
っスよね!!
結局なんやかんやあったがやっぱり南チャン先頭に躍り出る。労せず2番手まで上がる俺。
そしてこの幸運、絶対ものにしたい。
途中、大王様が上がってこようとしてたのを何回か確認したが、前を行く遅い実業団やエキスパの方々を”壁”にしてコースを狭めブロッキング。楽には抜かせない。
これが俺のやり方だ。
才能が足りぬのなら臆面もなく人の手にすがり
己の手を汚し、
他者に侮辱されようとも
それでもなお頂点を獲るために
全ての男が本来持っている焼け付くような渇きを求めて。
全てはただ頂点を獲るために……!
まあ、ただ全部止めるってのは至極無理な話で、結局大王様先頭へ。
自分は真後ろを死守。
大王様は後ろを振り向くときは右からしか振り向かないので、ポジションは相手の左後ろをキープ。
できるなら視界から消しておいた方が良さげ。
とそこへ後ろからシノザッキー加速。
残り4km切ったくらいだったであろうか。
ザッキーと同じ年代別の南チャンもこれを追うべく当然加速。
ただ、大王様、動かない・・・!?
もしかしてキツい・・・!!?
まあ違う年代だから無理して追う必要はないのはわかるが・・・
大王様そういう感じだったか?
このとき自分も追うべきか悩んだが、その一瞬の判断の遅れが命取り。
大外から新手登場。
2人を追う。
正体は先ほど前を少し引いていた137番。
同じ30代年代別の選手である。
地力があるのは重々承知していたが、事前の自分未来予想図ではこの人がここで上がってくるのは想定外。
みぃかぁみぃいいいい!!!!
このクソガキがぁあああああ!!!!!
※当然30代に上がったばっかりの自分の方が年下です
しかも三上さん2人に追いつく。
自分との差は10mか20mか。
三上さん予想外の抜け出し
ダメだ追いきれない…
いやダメじゃない
せっかくここまで来たんだ
チャンスを掴んだんだ
もう少しだ…
もう少し速く…
ここで諦める?
違う!
勝つんだ!
諦めなきゃ何とかなるとは思わねえが、諦めたら何も残んねえぞ。
ただそうは言っても自分はこの終盤かなり脚にキテいる。
三上さんが後ろでどれだけ脚を”溜めて”いたか自分には知る由もないが、終始前方をキープしていた自分より脚が残っている可能性は充分にある。
追いつけるか。
この20m。
多少全開で踏めば或いは・・・
いや、待て。
その選択で本当にいいのか。
それは果たして”勝つ”ための選択肢なのか。
何人も頂点狙ってんだ。
計画が少し狂うのは当たり前。全て予想通りとはいかないハズだ。
ここで加速して追いついても、そこで使った”ツケ”は必ず後で払うことになる。
この終盤、そのツケ払いの代償は、おそらくゴールスプリントに影響してくるであろう大きな代償になるだろう。
であれば。
ここは大王様が前追いつくの信じて、後方待機。
大王様だって同じ年代別なのはわかっているだろう。どんなに疲れていようとやすやすと見逃さないハズだ。
俺が信じた大澤という男はこんなところで落ちるような男ではない。
酷なようだが、大王様が力を使い果たし、それに乗じて前に追いつき、最後みぃかみぃとゴールスプリントが俺が瞬時に描いた細い”勝ち筋”だ。
そして、大王様動く。
流石。
同タイミングでシンクロして加速。
これこそ初動の速さを極めた
“1st Tenpo”
人間が行動を起こす前には必ず予備動作がある。
眼の動き。
筋肉の動き。
その全ての動きを瞬時に読み取り相手の動きを先んじる。
人の後ろにつくことを生業とする”蝿の王(ベルゼブブ)”の奥義である。
蝿にも蝿なりの意地があるんだよ。
これで首の皮一枚つながった。
『諦め』が頭をよぎるかどうか。
それが心の力の差。
ただ大王様すぐには追いつかない。
ジワリジワリと距離を縮めていく。
うん、うまい。
ヒルクライムにおいて急加速はご法度だ。
チェーンのテンションを保ったまま、少しずつ負荷をあげるやり方が一番身体への負担が少ない。
某漫画のように羽なんか出せないけどだから一歩一歩登っていくんだよね。
やはり最終局面まで残りそうやな大王様。
何分かかけて前を走る三上さんに大王様と自分が追いつく。
いや正しくは、三上さんも先行する年代別20代2人のペースについていけず、下がってきたともいえるか。
コーナー2つでバックミラーから後続の姿を消させるあの2人。流石やなぁ。
つーか奴らの相手をしなくていいというのはマジで今年年代別30代の参加でラッキーだったかもしれん...
んな感じで
残り2km地点で大王様再び先行。
年代別20代の2人は遥か彼方。
つまり、
ここから30代の優勝者が決まる。
そしてラスト2km岩清水バス停前を過ぎ、空がひらける九十九折り2つ目の55番カーブ手前。
ベルゼブブ最終奥義
“Minus Tenpo(マイナス テンポ)”発動
加速をはじめるタイミング。
それがテンポの秘密だ。
初動の速さというべきか。
その最終奥義が
“相手の加速”より早いタイミングで加速するMinusTenpo
え?
そんなこと不可能だって?
俺がどれだけこの赤城山を研究してきたと思っている。
そして、どれだけ優勝候補者の動きを研究してきたと思っている。
この令和の時代。
情報は溢れかえっている。
STRAVAではどのコースのどの部分でどれだけパワーを出して心拍がいくつあがったか全世界に向けて発信してくれている。
YouTubeでは丁寧に走行データをつけて高画質で公開してくれている。
無意識だろうが、この恐ろしいところは本人たち自ら行なっているところだ。
先にもいったか使える武器は惜しげも無く使います。勝つために。
ちなみに私はたまーに外走った練習状況こそ不定期で公開しているものの大事な情報(FTP)などは一切出していません...たぶん。
話がそれたが、
長年染み付いた動きは変わらない、ということで、データから弾き出したこのタイミングで加速。
相手が加速する寸前に加速するとどうなるか。
ふたり並ぶ。
そのあと自分だけわずかにスピードを緩めるとどう思うか。
「コイツ、まだ元気そうやな」
本当はいっぱいいっぱいで加速して欲しくないので渾身のブラフ。
もう一度後ろにつき直す。
55番カーブからの後半戦のラスト1.5km、通称トナカイカーブ(道を上からみるとトナカイさんみたいになってる)からゴールまでは残り時間にして約5分。
あと5分耐えればスタートの位置どりの関係上自分の勝ち。
しかもこのトナカイカーブから斜度が極端に緩み、自分の得意な緩斜面コースとなる。
まず離されることはない。
相手もここで無理したら失速するかもしれない、思うハズ!
優勝を目指すってのはそういうことだろ!
パワーウエイトレシオが高い方が勝つんじゃないんだ。
最後までついていけなかった方が負けるんだ
残りラスト1km
それでもゴールに近づくにつれて、
負荷は徐々に上がり、思考は鈍っていく。
あらゆる筋肉が脳の命令に反して”サボり”はじめようとする。
まだだ。
このゴール前ほんの一瞬でもスピードを緩めれば取り返せない遅れになる。
俺のスプリント力でほんの少し緩みがでてしまえば高速で加速する後方に一瞬で沈められてしまう。
まわせ!
まわせ!!
ふめ!
ふめ!!
こ こ に い た け れ ば ! !
そして、ここで深呼吸。
酸素を取り入れ最後のスプリントに備える”スプリントローディング"。
両膝を爪で掻きむしり、筋肉に最後の刺激を入れる。
と、ここで前を走る垂れたハズのエキスパの人が我々の熱気に呼び起こされたのか再び闘志を取り戻す。
ラスト500mの看板通過。
まだ大王様先行。
どちらの後ろにつくか。
大王様か。
エキスパか。
酸欠になりそうな頭で考えろ。
どこで仕掛けるか!
いつ仕掛けるか!
どのように仕掛けるか!!!
エキスパに勢いがあるとみなや、素早く鞍替え。
あわせて加速。
良いスプリントはぁ〜!?
良い助走からぁ!!!
「ぜってえ負けねえ」
「どうしてそんなに頑張れるのかなって」
「強くなって...勝ちたいから。」
「そっかきっといろいろ理由があるんだね」
「ん?勝ちたい理由?
負けたくないことに理由っている?」
『腹が減ってメシが食いたいことに理由がいるのか』
「ごめん、愚問だったね・・・
さすが日向先輩カッケーっす。
いやいや
こんなときに俺は何を思い出している。
赤城山ヒルクライムの結果という意味では、勝負は両者スプリントに入った段階で8割方決まっている。
ただ嬬恋のように後は流せばいいという風にはならない。
『優勝』が担保された今だからこそ、俺が求めるのは本物の『勝負』であり、本物の『勝ち』だ。
最後、最強の背中をその目に刻んでやるぜ。
小さくなる背中を黙って見てな。
みせてやるよ。
必殺の『ドラゴンスプリント』を。
最強の腹筋メニュー・ドラゴンフラッグから名前を冠したその龍の一撃で後方に沈めてやる。
前腕と上腕を支える肘関節のように、豪脚にはそれを支える腹筋が必要であることはご理解いただけるだろう。
ボクゥはこの半年間、毎日100回の腹筋を欠かしたこと無いよ?
ラスト300m。
エキスパの民よ。
邪魔だ。
オレ、今から本気で踏むわ。
フーッ・・・・・
いくぜ!!
もってぇええええ!!!!!
こぉおおおおおいいいいい!!!!!
残り全てを振り絞るべくフル加速。
やべぇw
やべぇよw
ついてくるw
ついてくるよ大王様w
オレ本気で踏んでのに差がつかねぇよw
ただね大王様...
この加速には”二段目”があるんよ!!!
強靭な体幹で素早く体制を整えなおし、上半身をハンドルに乗せ、文字通り自らの体重の全てをそのペダルにかける。
一段目の加速で先ほどのエキスパ民はパスした。
残り50m。
まだ横並び。
すげぇ漫画みたいだ。
マジいい勝負だ。
でも勝つのは俺だ!
赤城は俺の原点!!
絶対に負けはない!!!
ここで勝てるなら全てを捨ててもいい!!!
その信念と闘志だけで
ただ前へ─
肉体猛々しく
気力雄々しく
前へ
もっと前へ
1㎜でも前へ……!!
バイクは最後、、、
投げるっ!!!!!
グイッ!!!!!!!
ハァハァ...
...った。
ゼェハァ...
...勝った。
確かにっ...
手応え...あった。
最後ハナ差で私だろう。
これが勝利。
空を見上げる。
あー全く今日いい天気だわぁ...
フラッ....
目線を下に向けるとガーミンが目に映る。
59分03秒。
ハハッ...
速すぎだろ俺。
年代別30代のゴールにたどり着いた順番では間違いなく1着であったが、その後ネットタイム計測による後発者のゴールタイムが確定し、僅差で優勝を逃したことを知る。
その差わずか0.048秒
ただ、そのやり遂げた最強の背中に一片の悔いなし。
散りて二度とは咲かずとも
炎のごとくに散るぞ美し
ー完ー
※このブログ記事はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。
製作:最強ヒルクライマー